こんにちは、Tomです。
今回は1泊2日、しっとり石川県の金沢をめぐる旅です。
ふと「雨でも似合う街ってどこだろう?」と考えて、思い浮かんだのが金沢でした。
北陸の小京都とも称されるこの街には、歴史と美食、そして何より“しっとり”とした風情があります。 そんな空気に誘われて、夜の金沢駅に降り立った旅の記録を、今日はたっぷりとお届けしたいと思います。
夜の鼓門、光る旅のスタート
金沢に着いたのは夜の8時すぎ。 東京から新幹線で3時間ほど揺られたあと、駅の改札を抜けてまず目に飛び込んできたのが、金沢駅のシンボル、巨大な「鼓門(つづみもん)」です。
朱塗りの柱が幻想的にライトアップされ、まるで異世界の門のよう。太鼓を模したその姿には、どこか厳かさと華やかさが共存しています。
この鼓門、実は能楽の鼓(つづみ)をモチーフにしており、金沢が誇る伝統芸能の精神を象徴したもの。駅に到着した瞬間から、「ここは一味ちがうぞ」という空気がビシビシ伝わってきました。
その隣にある「もてなしドーム」は、雨の多い金沢ならではのガラス屋根。観光客を雨から守る“おもてなし”の心が込められた建築です。
まずはこの駅前で軽く深呼吸。雨上がりの石畳に反射するネオンが、旅の始まりをしっとりと彩ってくれました。
金沢駅周辺で飲み歩き、まずは「せん」へ
宿に荷物を置いたら、さっそく金沢グルメに繰り出します。
初日の夜は、金沢駅近くで居酒屋を2軒はしご。まず訪れたのは、地元の人にも人気という『居酒屋せん』です。
お通しに出てきたのは、ほのかに香る海藻の酢の物。北陸の海を思わせる塩気と爽やかさが、空腹にしみわたります。
頼んだのは「おまかせ三種の刺身食べ比べ」。 この日のネタは、寒ブリ、甘エビ、そしてマグロの中トロ。
どれも見るからに新鮮で、口に入れるととろけるよう。脂ののりと海の香りが渾然一体となって、思わず目を閉じてしまいました。
そして忘れちゃいけないのが「能登鶏のコリコリつくね焼き」。 軟骨入りのつくねは外が香ばしく、中はふっくらジューシー。噛むたびにコリッと心地よい音がして、これだけでビールが止まりません。
ちなみに「能登鶏(のとどり)」は、石川県能登地方で育てられている地鶏で、歯ごたえと旨味の強さが特徴。火を入れると脂の甘さが立ち上がり、鶏好きにはたまらない逸品です。
この夜のクラフトビールは「加賀棒茶スタウト」。 石川県の名産・加賀棒茶(焙じ茶)を使った黒ビールで、香ばしさとほんのりした甘みが絶妙。
日本酒は「手取川(てどりがわ) 山廃純米」。 シャキッと辛口タイプで、刺身にも煮物にもぴったり。すっかり気持ちが緩んでしまいました。
二軒目は「九十九」へ、金沢おでんでほっこり
「もう一杯だけ…」という誘惑に抗えず、2軒目は『居酒屋 九十九(つくも)』へ。
店内は木のぬくもりを感じる落ち着いた雰囲気で、カウンター越しには地元のおじさんたちのゆるやかな会話が聞こえてきます。
ここでは、金沢名物の「金沢おでん」をいただきました。
金沢おでんとは、地元の魚介や野菜をふんだんに使った、ちょっと贅沢なおでん。加賀野菜の「源助大根」や、車麩、ふぐの白子など、ユニークな具材が特徴です。
この日は「ふかし(魚のすり身)」「赤巻き(かまぼこ)」「大根」「バイ貝」などを注文。
中でも驚いたのは、しっとりと煮込まれた鴨肉を甘辛く味付けした「鴨治郎煮」。 濃い目のタレが鴨の旨味を引き出していて、日本酒との相性が抜群でした。
合わせたのは「天狗舞(てんぐまい) 天」。 山廃仕込みの日本酒らしい複雑な酸味と旨味が、口の中でしっかり広がっていきます。
金沢の夜、静かに深まりました。
翌朝の港めし、金沢港いきいき魚市
翌朝は少し早起きして、タクシーで「金沢港いきいき魚市」へ。 ここは観光客向けというより、地元の人々の“台所”といった雰囲気が魅力です。
所狭しと並ぶ海産物の中で、ひときわ目立っていたのが「紅ズワイガニ」と「真鯛」。
紅ズワイガニは日本海側で多く水揚げされ、甘みが強く、身が繊細なのが特徴。香箱ガニとも呼ばれ、冬の味覚として有名ですが、冷凍技術の進化で年中楽しめるようになっています。
この日は、両方を購入してイートインへ。
イートインスペースでは、300円の調理代で好きな料理に仕上げてくれるサービスがあります。時間は30分ほどかかるので、のんびり魚を眺めながら待つのがおすすめです。
出てきた真鯛のお造りは、身が透き通るように美しく、甘みと弾力が口の中で踊るよう。
蒸し上がった紅ズワイガニは、手を使ってほぐしながらいただきました。無心で食べていたのか、気づいたら30分無言。
港町の静けさの中で味わう朝のごちそうは、ただただ至福でした。
雨のひがし茶屋街で、調味料に出会う
午後はあいにくの雨模様でしたが、金沢ではそれも味方になります。
しっとりと濡れた石畳、軒先に滴る水。そんな風景が似合う場所、それが「ひがし茶屋街」です。
江戸時代から続く茶屋文化が残るこのエリアには、昔ながらの建物がずらり。 観光客でにぎわってはいましたが、一本裏手に入れば、雨音と木の香りしか聞こえないような静寂が広がります。
今回のお目当ては「金沢の伝統調味料」。
ひがし茶屋街には、金沢の味を支える醤油・味噌・魚醤などの老舗が集まっています。
中でも印象的だったのが「いしる」。これは魚を塩漬けにして発酵させた魚醤で、能登地方では鍋や炒め物に使われる旨味の宝庫。日本のナンプラーとも呼ばれています。
他にも、加賀味噌(赤味噌ベースでコク深い)や濃口醤油(関西のものよりも甘め)などを試食。
店主の方が「ごはんにかけるだけで十分うまいよ」とにっこり。 たしかに、どれもおかずいらずの味わいで、スーツケースに一本入れて帰ろうと心に決めました。
旅の終わりに:ぬくもりと湿り気のある記憶
こうして1泊2日の金沢旅は幕を閉じました。
晴れた日の旅もいいけれど、金沢の魅力は、少し湿った空気の中にこそ宿っているように感じました。
夜の居酒屋で交わしたひと言、港での無言の朝ごはん、石畳に響く自分の足音。
派手さはないけれど、確かに心に残る風景が、そこかしこにありました。
食べものの味だけじゃなく、その背景にある人や歴史、気候や土地の香りまで、ぎゅっと詰まった旅でした。
次は晴れた日の兼六園も歩いてみたいなと思いつつ、しとしとと降る雨に見送られながら金沢をあとにしました。
それではまた!